味覚の生理学
私たちの口の中には、食べ物の味を受けとる「味細胞」と呼ばれる細胞がたくさん存在しています。それは特に舌の表面に集中しています。私たちの舌の表面を拡大してみると、ポツポツとした突起をたくさん見ることができます。この突起は棘突起(きょくとっき)と呼ばれ物理的刺激に応答します。この棘突起にまざってマッシュルームの様な形をした茸状乳頭(しょうじょうにゅうとう)があり、この中に味覚を受けとめる味蕾(みらい)が1個~数個あります。舌根部には、有郭乳頭(ゆうかくにゅうとう)と呼ばれるクレーター状の組織があり、両乳頭に舌全体の70%の味蕾が集中して存在します。舌後方の側面には、葉状乳頭(ようじょうにゅうとう)があり味蕾が散在しています。残りの
20~30%の味蕾は、咽頭(いんとう)、喉頭(こうとう)、軟口蓋(なんこうがい)の粘膜上皮などに存在しています。咽喉頭に散在する味蕾は、飲み込むときののど越しの味を感じるのに役立っていて、水のおいしさやビールののど越しは、この部分が応答するためだといわれています。
味蕾の総数は、人種、年齢、栄養状態により変化しますが、成人で約7,500個といわれています。また、味細胞は10~12日という短いサイクルで次々と新しい細胞と入れ替わっています。このように新陳代謝が活発なので、嗅覚や聴覚に比べて味覚は歳をとっても衰えにくいといわれています。が、高齢では味蕾の数が減少するので味覚の認知に時間がかかります。
食べ物を口の中に入れて噛むと、咀囑(そしゃく)することによって味物質は唾液中に溶け出します。そして、味蕾の入り口(味孔)(みこう)に侵入し、味細胞の表面に突出してしている味覚を受容する微絨毛(びじゅうもう)に接触します。味細胞内部には直接味物質が取り込まれない構造(タイトジャンクション)になっていて、いつも一定の味覚感受性を保つようになっています。 一般に、私たちの体が外からの刺激(触覚、聴覚、視覚、嗅覚、味覚など)を受け入れる窓口として、生体内の細胞は、その表面膜にさまざまな「受容体(レセプター)」というものを持っています。昧細胞についても同様で、表面膜にはさまざまな受容体が存在しています。受容体(レセプター)は、細胞外からの刺激(ここでは味物質)に応答する窓口として重要な役割を担っています。 5つの基本味のうち甘味・うま味には、それぞれに対応したタンパク質でできた受容体があります。植物に含まれる苦味成分のデナトニウムやシクロヘキサミドの受容体(タンパク質)が確認されています。一方、酸味と塩味は、体内ではイオンとして機能しており(酸味:水素イオン(H+)、塩味:ナトリウム等のアルカリ金属イオンなど)、これらは各々のイオンチャンネルを通して細胞内に取り込まれます。
味神経線維を伝わり脳幹(延髄孤束核)(のうかん(えんずいこそくかく))を経て送りこまれてきた味の情報は、大脳皮質の味覚野に伝わります。味以外の香り、色、形などの外観、温度、歯ごたえなどの食感といった食物情報は、それぞれ特有の感覚器で感知され、大脳皮質のそれぞれの感覚野に伝達されます。そして、これらのすべての情報は大脳皮質連合野に至り、食物の良否や求める栄養素を含むかなどの判断が行われ、最終的に食べ物に関する総合評価が行われ食行動に反映されます。 又、味覚を含む五感情報と内臓感覚の情報は、さらに扁桃体(へんとうたい)へと伝わります。ここでは過去の情報との照合が行われ、食べ慣れていて安心して食べられるといった過去の食体験の記憶も含め、好ましいかどうか(快か不快か)の判断が下されます。 扁桃体からの情報は、さらに視床下部(ししょうかぶ)へと伝わります。好きな場合は摂食中枢を刺激し、食行動を開始させます。好ましくない場台は、食行動がストップされます。好きなものを食べると、脳内にある報酬系(主にドーパミン神経系)の活動が増加し、楽しくなったり、気分がりラックスすることも知られています。 また、ヒトは、おいしさだけでなく、食事をして栄養的にもバランスよく充足された場合も、満足感が得られます。
|
|
|